ダンス大国イスラエルでの人生修行!
誰もが一度は憧れるダンス大国イスラエルでのダンス修行。そこで手にしたのは、ダンスだけでなく、自分の人生に影響を与える、温かくも力強いメッセージの数々でした
―井田亜彩実(コンテンポラリーダンサー・振付家)
2013年9月、私は文化庁の新進芸術家海外研修員として、イスラエルのプロダンスカンパ ニー”MARIA KONG”に留学しました。
当時を思い出すと、本当に勇気がある行動をしたと思います。今まで外国への苦手意識があり、英語の成績は常に低く、自分が海外で生活をするとは思ってもみなかったからです。 大学の恩師の推薦で、この研修制度を受けてみようと決めてから、必要となるダンス活動の実績において国内外で受賞が続くなど、パズルのピースがはまるかのように全てが上手くいきました。
”運命”という言葉が本当にあるとしたら、私はあの土地へ導かれているのだと感じました。
そんな私はイスラエルへ向かう飛行機の中で”1週間で英語が話せる”という本を握りしめ、これからの生活に不安など微塵も感じずワクワクしていたのです。
イスラエルはダンス大国と呼ばれ、コンテンポラリーダンスの聖地として、ダンサーであれば一度は訪れたい国です。
世界的に有名なバットシェバ舞踊団や、日本での活躍目覚しいインバル・ピントなど、ご存知の方も多いことでしょう。イスラエルのダンスは、表現したい!踊りたい!他者を知りたい!という人間の本質が詰まっています。建国新しい彼らからは自分たちが未来を作るんだという想いが伝わってきます。
だからこそ、彼らのダンスはピュアで、真っ直ぐで、力強い。また、そうありたいと願うダンサー達が世界中から集まるのです。
ミスをしてもいい?!ひっくり返された私のダンス観
私が留学した”MARIA KONG”はバットシェバ舞踊団で活動してきたダンサー達が創作意欲を止める事ができずに設立した若いダンスカンパニーでした。メンバーも国際色豊かで、共通語は英語でした。
留学直後に私は衝撃を受けました。
「あなたはいつも一人で踊っている。相手がいるからあなたが動くの。あなたが動くから相手が 動くの。」
私はそれまで自分がしっかり踊っていればそれでいいじゃないかと思っていました。しかし、それは相手を無視する行為で、なんて失礼な事をしていたのだろうと思いました。
さらに私が驚いたのは、「ミスをしなさい。」という言葉でした。その真意は、今を生きろという事です。未来に起きるかもしれない失敗に怯えるより、今、この瞬間を表現する。
なんて素晴らしい考えだと感動に震えたのを今でも覚えています。
私は留学から一年後、正式にメンバーとなり、4年間活動しました。
また、常日頃、彼らは私に無理難題を掲げてきました。
「あさみ、歌える?」「あさみ、これできる?」「あさみ、やってみる?」と。一度もNoといった事はありません。出来なかったとしても出来る様になればいいだけの話です。Yesと言った瞬間から新しい道は生まれ、私が知らない景色を見せてくれます。
そんな度胸がついたのは、いつでも存在を認め、信じ続けてくれたメンバーがいたからです。
イスラエルはいろんな国籍、人種の人々が集まります。こうして互いに興味を持ち、認め合い、信じ合える仲間がいる国、やはり私にとって運命の出会いだったようです。
photo: hitoha.nasu
井田亜彩実 (Asami Ida)
筑波大、筑波大学院舞踊コースにて舞踊学を学び、平山素子に師事。振付家として、2012年ベラルーシ 国際コンペティション第1位、”横浜ダンスコレクション2021”奨励賞など、国内外で数々の賞を受賞。
2013年、文化庁新進芸術家海外研修員。
2013年-2018年、ダンスカンパニー”MARIA KONG”(イスラエル)にて活動。帰国後、”Arche”を主宰し、国際交流基金の芸術家派遣や、地域に根付いたアートの発信をコンセプトとしたアートイベント”ARTopia!“ディレクターも行う。これまで、平山素子、北村明子、石渕聡等の作品に出演。
Webサイト:https://genjouijihataika.wixsite.com/asamiida